麻の成長力は、旨味のもと?! 麹でほどいて、台所へ。
麻の成長力と、麹でほどく発酵のはなし
麻という植物を見ていると、いつも不思議な力を感じます。
条件が整えば、短い期間でぐんぐん伸びる。
まっすぐに茎を立ち上げ、強い繊維をつくり、やがて小さな種子の中に、次の命のための栄養を蓄えていく。
麻は、ただの食材ではありません。
非常にたくましい植物です。
その成長力は、茎にも、繊維にも、葉にも、そして種子にも現れます。
私たちが日々扱っている麻の実ナッツは、その植物としての力が、ぎゅっと凝縮された部分でもあります。
麻は、短期間で力強く育つ植物
麻は、古くから繊維、衣料、紙、縄、建材、油、食用など、さまざまな用途に使われてきた植物です。
その理由のひとつは、成長の早さにあります。
短期間で大きく育ち、茎からは丈夫な繊維がとれ、種子からは油脂やたんぱく質を含む食材が得られます。
もちろん、どんな環境でも勝手に育つ万能植物というわけではありません。
土壌、気候、水分、品種、栽培方法によって、収量や品質は大きく変わります。
それでも麻は、過度に農薬や化学肥料へ頼らずに育ちやすい作物として、古くから人の暮らしに関わってきました。
短期間で伸び、雑草を抑えるほどに葉を広げ、力強い茎をつくる。
その姿には、植物としての生命力がよく現れています。
この力強さは、麻の大きな魅力のひとつです。
茎に現れる力、種子に蓄えられる力
麻といえば、まず繊維を思い浮かべる方も多いかもしれません。
麻の茎から得られる繊維は、古くから布や縄、紙などに使われてきました。
まっすぐに伸びる茎。
その内側に通る強靭な繊維。
これは、麻という植物が短期間で体を支え、上へ上へと成長していくための構造でもあります。
一方で、種子にはまた別の力が宿ります。
種子は、次の世代へ命をつなぐための器です。
そこには、発芽し、根を出し、芽を伸ばすための栄養が蓄えられています。
麻の実ナッツには、植物性のたんぱく質、油脂、ミネラルなどが含まれています。
特に、たんぱく質と油脂が同時に含まれていることは、麻の実を料理素材として見たときに、とても大きな特徴です。
ナッツのようなコク。
やわらかな甘み。
油脂によるまろやかな口当たり。
そして、たんぱく質由来の厚み。
これらは単なる栄養成分ではありません。
麻という植物が、次の命のために蓄えた「生命の密度」でもあります。
グルタミン酸は、旨味であり、成長の材料でもある
麻の実を料理素材として見たとき、注目したい成分のひとつがアミノ酸です。
たんぱく質は、アミノ酸がつながってできています。
麻の実に含まれるたんぱく質の中にも、さまざまなアミノ酸が含まれています。
その中には、旨味に関わる成分として知られる「グルタミン酸」も含まれています。
料理の世界では、グルタミン酸は旨味成分として語られます。
昆布だしの旨味成分としてもよく知られています。
手元の分析値でも、麻の実は総アミノ酸組成として見ると、昆布を上回るほどのグルタミン酸を含んでいます。
ただし、ここで大切なのは、グルタミン酸を単なる「旨味成分」としてだけ見ないことです。
植物にとってのグルタミン酸は、味のために存在しているものではありません。
植物が窒素を取り込み、さまざまなアミノ酸やたんぱく質をつくり、体を組み立てていく流れの中で、グルタミン酸は重要な役割を担っています。
つまり、グルタミン酸は、植物にとって成長のための基礎材料でもあります。
麻の実にグルタミン酸が豊富に含まれているということは、単に「旨味成分が多い」というだけではありません。
それは、麻という植物が次の命を育てるために、種子の中へ成長の材料をしっかり蓄えている、ということでもあります。
だから、すぐに水へ溶け出すわけではない
ここが、とても重要なところです。
麻の実には、旨味の材料が豊富に含まれています。
しかし、それは昆布だしのように、水に浸せばすぐに旨味として溶け出してくるものではありません。
昆布の場合は、水やお湯に時間をかけて浸すことで、遊離したグルタミン酸がだしとして引き出されます。
一方、麻の実の場合、そのグルタミン酸の多くは、たんぱく質を構成するアミノ酸として存在しています。
つまり、麻の実のグルタミン酸は、すぐに水へ流れ出るような形ではなく、種子の奥に、たんぱく質としてしっかり蓄えられているのです。
これは、植物側から見れば自然なことです。
種子は、次の命を守るための器です。
発芽のときには、その中に貯蔵されたたんぱく質が少しずつ分解され、芽や根を伸ばすための材料として使われていきます。
大切な成長の材料が、水に触れただけで簡単に流れ出てしまっては困ります。
だからこそ、麻の実の旨味の材料は、すぐに水へ溶け出す「だし」のような形ではなく、種子の奥に、たんぱく質として堅く蓄えられている。
ここに、麻の実という素材の面白さがあります。
麻の実には、眠っているおいしさがある
麻の実ナッツをそのまま食べても、おいしさはあります。
やさしい甘み。
青みのある香り。
ナッツのような丸み。
油脂によるコク。
ただ、その奥にあるたんぱく質由来の旨味や厚みは、そのままでは十分に引き出しきれない部分があります。
料理に使うときも同じです。
ただ振りかけるだけでは、麻の実の持つ力の一部しか使えていないのではないか。
そう感じることがありました。
麻の実には、もっと深いおいしさが眠っている。
けれど、それは水に浸すだけでは簡単に出てこない。
種子の奥に、たんぱく質としてしっかり蓄えられている。
では、その眠っているおいしさを、どう引き出すのか。
そこで私たちは、麹の力に注目しました。
麹でほどく、という考え方
麹には、素材に含まれるでんぷんやたんぱく質を分解し、甘みや旨味を引き出していく働きがあります。
味噌、醤油、甘酒、塩こうじ。
日本の発酵食では、麹の力によって、素材の中にあるおいしさをゆっくり引き出してきました。
麻の実にも、この考え方を応用できます。
麻の実に含まれるたんぱく質を、麹の酵素によってゆっくりほどいていく。
たんぱく質をペプチドやアミノ酸へと近づけ、料理の中で感じやすい形にしていく。
その過程で、麻の実のコク、甘み、旨味の土台が少しずつ開いていきます。
これは、外から旨味を足すこととは違います。
麻の実の中にあるものを、時間をかけて引き出す。
眠っていたおいしさを、料理に使える形へ近づける。
そのために、麹を使う。
この考え方が、麻の素の土台にあります。
水に溶かすのではなく、発酵でほどく
麻の実の旨味は、昆布だしのように「水に溶かして取り出す」ものとは少し違います。
麻の実の場合、旨味の材料は、種子の奥にたんぱく質として蓄えられています。
だから、ただ水に浸すだけでは十分に引き出せません。
必要なのは、ほどくことです。
発芽のときに種子の中で起こるように、たんぱく質を少しずつ分解し、アミノ酸やペプチドとして開いていく。
その働きを、料理のために麹に担わせる。
水に溶かして取り出すのではなく、発酵によってほどいていく。
そこに、麻の実を調味素材として使う面白さがあります。
麻の成長力を、発酵によって台所へ
麻の実は、麻という植物が次の命のために蓄えたものです。
そこには、たんぱく質がある。
油脂がある。
ミネラルがある。
そして、旨味の材料となるアミノ酸も含まれている。
しかし、それらはそのままでは、料理の中で十分に活かしきれないことがあります。
だから、麹でほどく。
時間をかけて分解し、なじませ、料理に使いやすい形にしていく。
麻の素は、そうして生まれた発酵ベースです。
麻の実の持つ力を、ただ栄養として語るのではなく、料理の中で使える形にする。
麻という植物の生命力を、日々の台所に取り入れる。
それが、麻の素で私たちがやろうとしていることです。
台所で活用していくための、まずの基軸食品
麻の実には、大きな可能性があります。
そのまま振りかけてもよい。
ヘンプミルクにしてもよい。
お菓子に使ってもよい。
料理に混ぜ込んでもよい。
けれど、日々の台所で本当に使い続けていくためには、もう少し「使いやすい形」が必要だと感じていました。
麻の実ナッツは栄養豊かで、おいしい素材です。
しかし、そのままでは料理の中で役割が限定されることがあります。
トッピングとして使う。
生地に混ぜ込む。
ミルクにする。
ペーストにする。
もちろん、それぞれに良さがあります。
ただ、もっと日常の料理の中心に入り込むには、卵、肉、魚、野菜、ごはん、麺、スープに自然となじむ形が必要でした。
そのための、まずの基軸食品が「麻の素」です。
麻の素は、麻の実をそのまま使うのではなく、麹の力でほどき、塩と合わせ、料理に使いやすい発酵ベースにしたものです。
塩こうじのように下味に使える。
出汁のようにお湯に溶かせる。
味噌や醤油のように、料理の土台を整えられる。
油や酢と合わせれば、ディップやドレッシングにも展開できる。
つまり麻の素は、麻の実を「特別な素材」から「日々の料理に使える基礎素材」へ変えるための入口です。
麻の実を台所で活かすには、まず調味の土台に入ること。
塩味をつけるだけでなく、素材の味を立ち上げ、たんぱく質や油脂の厚みを料理に届けること。
そこに、麻の素の役割があります。
麻の実の可能性を広げていくうえで、麻の素は最初の基軸です。
ここから、卵料理、肉料理、魚料理、スープ、炒飯、麺料理、粥、野菜の和え物、ディップへと展開していく。
さらにその先に、麻醤油麹、麻味噌、麻の実ブロード、発酵ヘンプクリーム、麻の実ディップなど、さまざまな応用が生まれていきます。
けれど、まずは麻の素。
麻の実を台所に迎え入れ、毎日の料理の中で自然に使っていくための、いちばん基本となる発酵ベースです。
調味料ではなく、麻の実を使うための入口
麻の素は、塩こうじのように使うことができます。
肉に揉み込む。
魚に塗る。
卵に混ぜる。
スープに溶かす。
野菜を和える。
ごはんや麺料理に使う。
けれど、単なる塩こうじの置き換えではありません。
麻の実が持つたんぱく質、油脂、アミノ酸、コク。
それらを麹の力でほどき、料理の中で使いやすくしたものです。
言い換えれば、麻の素は「麻の実を料理に使うための入口」です。
麻の実をそのまま振りかけるだけでは見えてこなかった力。
ヘンプミルクにするだけでは使いきれなかった厚み。
ナッツとして食べるだけでは引き出せなかった旨味。
それらを、発酵という方法で開いていく。
そこに、麻の素の意味があります。
麻の実の力を、日々の料理へ
麻という植物は、短い時間で力強く育ちます。
茎には繊維をつくり、種子には次の命のための栄養を蓄えます。
その小さな種子の中にある力を、どうすれば日々の料理に活かせるのか。
その問いから、麻の素は生まれました。
麻の実に含まれる旨味の材料を、麹でほどく。
たんぱく質と油脂の厚みを、料理の中で使いやすくする。
塩味をつけるだけでなく、素材の味を立ち上げる。
麻の素は、麻の実の生命力を台所へつなぐための発酵ベースです。
特別な料理だけでなく、卵、鶏肉、炒飯、スープ、お粥、野菜料理へ。
日々の料理の中で、麻の実の力を少しずつ活かしていく。
麻の実を、もっと自然に、もっと深く、台所へ。
そのための小さな実験を、ASANOMI LIFEではこれからも続けていきます。