非加熱・麻の実ナッツの「草っぽい香り」について

料理素材としての麻の実ナッツを、もう一度見直す

麻の実ナッツは、たんぱく質や良質な脂質を含む食材として、少しずつ一般にも知られるようになってきました。サラダやごはんにかけたり、スムージーやお菓子に加えたり、日々の食事に取り入れやすい素材として広がっています。

一方で、麻の実ナッツを料理に使っていると、ときどき気になることがあります。
それが、非加熱タイプに残りやすい「青い香り」、いわゆる草っぽい香りです。

この香りは、麻の実らしさのひとつでもあります。しかし、料理素材として考えると、すべての料理に合うとは限りません。特に、ヘンプミルク、クリーム、和え物、焼き菓子、子ども向けの料理などでは、この青香が前に出すぎて、仕上がりの印象を左右してしまうことがあります。

かつての麻の実ナッツは、比較的クセが少なかった

かつて食品として流通していた麻の実は、発芽しないように処理されたものが多く使われていました。

ここでいう「加熱処理」は、香ばしさを出すためのローストや焙煎とは少し意味が異なります。麻の実を食品として輸入・流通させるうえで、発芽しない状態にすることが輸入可能となる条件であり、そのための処理として加熱された麻の実が多く使われてきた、という理解です。

ただ、昔の加熱タイプの麻の実ナッツは、いわゆる「炒ったナッツ」のような強い香ばしさがあるものではありませんでした。むしろ、非加熱特有の青い香りや草っぽさがやわらぎ、クセが少なく、料理になじみやすい素材だったという印象があります。


こちらが、以前流通していた Hemp Kitchen の有機 麻の実ナッツ(通常タイプ)。一時期、非加熱タイプも一緒に販売されていましたが、私はこちらの方が食べやすくて、料理にも使いやすく、好んで使っていました。

実際、以前流通していた加熱タイプの麻の実ナッツは、ローストナッツのように強い香ばしさを出したものではありませんでした。麻の実らしいやさしいコクや甘みはありながら、青香が前に出すぎない。その意味では、単なる「加熱済み」というより、料理素材として扱いやすい麻の実ナッツだったのだと思います。

麻の実は、もともと日本でも七味唐辛子などに使われてきた食材です。七味の中の麻の実も、生っぽい種子というより、加熱され、香りや食感を添える素材として親しまれてきました。料理の中で違和感なくなじむ麻の実には、そうした下処理の存在があったのだと思います。

加熱タイプと非加熱タイプ。違いは「栄養」よりも「香り」

以前、メーカーからは、加熱タイプと非加熱タイプで主要な栄養成分に大きな違いはないと聞いていました。

これは、とても納得できる話です。たんぱく質、脂質、ミネラルといった主要成分は、発芽不能化を目的とした管理された加熱処理によって、大きく失われるものではありません。たんぱく質は加熱で性質が変わることはありますが、栄養成分としての量がなくなるわけではありません。ミネラルも基本的に熱で消えるものではありません。

もちろん、麻の実は脂質を多く含む食材ですので、高温・長時間・酸素・光が重なると酸化のリスクはあります。しかし、発芽不能化を目的とした処理は、香ばしく焼き込むための強い焙煎とは別のものです。主要な栄養成分の差というより、実際に大きく違いを感じるのは、香りや風味の印象でした。

非加熱タイプでは、麻の実本来の青い香り、草っぽい香り、生の種子感が残りやすい。
加熱タイプでは、それがやわらぎ、料理に使いやすくなる。

つまり、加熱タイプと非加熱タイプの大きな違いは、栄養価そのものというよりも、料理素材としての香りの扱いやすさにあったのではないかと考えています。

非加熱タイプが広がったことで生まれた新しい価値

近年は、非加熱タイプの麻の実ナッツが主流です。麻の実ナッツの加工会社においても、非加熱タイプしか取り扱わない時代にもなりました。ローフードやロースイーツの文脈では、できるだけ熱を加えない素材が好まれることもあり、非加熱であること自体がひとつの価値として受け取られるようになったことにもあります。

非加熱には、非加熱ならではの良さがあります。素材に近い風味、やわらかな食感、生に近い印象。加熱による変化をできるだけ避けたい方にとっては、魅力的な選択肢です。

ただし、料理に使う素材として見ると、非加熱であることが常に最適とは限りません。麻の実ナッツの場合、非加熱のままだと、麻の実本来の青い香り、草っぽい香りが残りやすくなります。この香りが好きな方もいますが、食べ慣れていない方には、少しクセとして感じられることがあります。

青香は「麻の実らしさ」でもあり、「料理上の課題」でもある

麻の実ナッツの草っぽい香りは、単純に悪いものではありません。むしろ、植物の種子らしい香りであり、非加熱素材らしい個性でもあります。

しかし、料理素材として考えると、その香りが前に出すぎる場面があります。

たとえば、ヘンプミルクにしたとき。ナッツをそのまま食べるよりも、細かく砕いて水分と合わせることで、香りが広がりやすくなります。非加熱特有の青香が残っていると、ミルク全体に草っぽい香りが漂い、飲みにくさにつながることがあります。

クリームやディップにしたときも同じです。麻の実のコクを活かしたいのに、青香が前に出ることで、甘酒、味噌、酢、香味野菜、乳製品などとの調和が取りにくくなることがあります。

焼き菓子でも、麻の実の甘みやコクよりも、青い香りが先に感じられると、仕上がりが少し難しくなります。特にお子さまや、麻の実に慣れていない方には、この香りが苦手に感じられることもあります。

解決策としての「蒸し麻ナッツ」

当社では、この青香の課題を解決するために、まず「蒸し麻ナッツ」に取り組んできました。

麻の実ナッツを浸水して蒸すことで、生っぽさや草っぽい香りがやわらぎ、風味がまろやかになります。さらに、蒸すことで水分を適度に含み、お菓子づくりや料理、発酵素材としても扱いやすくなります。

たとえば、麹発酵させるときには「蒸し麻ナッツ」でないと成立しません。麻の実ナッツを整えておかないと、不快な味と香りを引き起こしてしまうのです。(なお、蒸しているからといって、麻の実ナッツが有するオメガ3などの必須脂肪酸は失われておりません。この件は、また改めて記事にいたします。)

ただし、蒸し麻ナッツには販売用素材としての難しさもあります。水分を含むため、完全乾燥に時間がかかり、水分管理や保存性の設計が重要になります(冷凍での販売は行っております)。発酵用素材としては非常に有効ですが、日常使いの麻の実ナッツとして広く販売するには、もう少し乾いた状態で扱える方法が必要でした。

蒸し上げた麻の実ナッツ。この後、急速冷凍を施して保管します。

 

そこで考えた「低温加熱仕上げ」

そこで新たに考えたのが、低温加熱仕上げです。

非加熱の麻の実ナッツを、強く焙煎するのではなく、低温・微風のホットエアでやさしく加熱する。目的は、香ばしいローストナッツにすることではありません。麻の実本来のやさしいコクや自然な甘みを活かしながら、料理に使う際に気になりやすい青香をやわらげることです。

強い焙煎をかけると、香ばしさは出ますが、麻の実ナッツの白くやさしい脂質感や、穏やかな甘みは変わってしまいます。低温加熱仕上げでは、そこまで香りを変えず、非加熱特有の草っぽさだけをやわらげることを目指します。

非加熱でもない。
ローストでもない。
蒸しでもない。

料理に使いやすい麻の実ナッツとして、ちょうど中間にあるのが「低温加熱仕上げ」だと考えています。

80℃の低温ホットエアで試してみた結果

実際に80℃の低温ホットエアで試作したところ、非加熱タイプに感じていた草っぽい香りがやわらぎ、かつて流通していた加熱タイプを思わせる、柔らかく穏やかな香りと味に整いました。

麻の実のやさしいコクと自然な甘みを活かしながら、青い香りをやわらげる。
非加熱でも、強いローストでもない、日々の料理に自然になじむ麻の実ナッツ。

当社では、この「低温加熱仕上げ」を、料理素材としての麻の実ナッツの新しい標準として育てていきたいと考えています。

非加熱、蒸し、低温加熱。それぞれに役割がある

麻の実ナッツは、ただ栄養価が高いだけの素材ではありません。料理に加えることで、コク、甘み、脂質感、軽いとろみ、満足感を加えてくれる、とても可能性のある食材です。

だからこそ、香りの扱いは大切です。

非加熱タイプは、素材に近い風味を大切にしたいときに。
蒸し麻ナッツは、発酵やペーストづくりに。
低温加熱仕上げは、日々の料理やお菓子に使いやすい標準タイプとして。

このように使い分けることで、麻の実ナッツはもっと自由に、もっとおいしく使えるようになります。

当社では、麻の実ナッツを「健康のために食べるもの」としてだけでなく、「料理をおいしくする素材」として見直しています。今回の低温加熱仕上げも、そのための小さな工夫です。

麻の実のやさしいコクと自然な甘みを活かしながら、青い香りをやわらげる。
日々の料理に、もっと自然になじむ麻の実ナッツを目指して、試作を重ねていきます。


参考:厚生労働省 麻薬取締部「大麻草の種子関係」および関連通知「大麻草の種子の取扱いについて」

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